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涼しくなる話11 [不思議]

開かずの間




これは俺がまだ学生だった頃に聞いた話です。

俺の大学時代の同級生でバイク仲間Kのお父さんは、紀伊半島にある有名な某ホテルの支配人だった。

お父さんは単身赴任だったので、学校が夏休みになると俺もKと一緒に赴任先のマンションにバイクツーリングでお邪魔させて貰った。

豪快な人で、俺なんかが遊びに行ってもちゃんこ鍋屋さんなどに連れて行ってくれて食べきれないほど飲み食いさせてくれた。

お父さんは「大阪から某ホテルまでの間にある料亭などで働いている料理人で自分を知らない人はいない」と言っていたが、本当だと思った。

そんなお父さんに、ある時都市伝説みたいな事の真偽を聞いたことがあった。

怒られるかなと思ったけど勇気を出して「ホテルには開かずの間というのがあると言われますが、本当ですか?」と直球を投げてみると、「大きな声では言えないが、確かにそういう部屋はある」と真顔で教えてくれた。

お父さんは部屋に入ったことはないが、新入りの板前などは入れられるらしく、中には幽霊なんかいるわけがないという豪傑もいて笑いながら部屋に入るが、夜中になると腰が抜けて部屋から這い出して来るらしい・・・そういう部屋は混む時期でも貸さないと言っておられた。

それより怖い話があるというので聞いてみると、お父さんがまだ料理人の駆け出しだった頃、調理場の冷蔵庫の中に美味そうなフグの肝を見つけたそうだ。

まだ若かったお父さんはそれを食べたらしいが、食べている途中から口の中がピリピリしてきて、気がつくと舌が麻痺していて話せなくなっていた。

すると先輩がやってきてお父さんの口からホースを胃袋まで差し込んで一晩中水を流し続けたらしい。

「あの時は死ぬと思った」と豪快に笑っていたけど、お父さんは幽霊なんかよりフグの毒の方が怖かったそうだ。

俺はどっちも怖いのだ。