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涼しくなる話3 [不思議]

消えた少年




東京は異常に暑いので、話だけでも涼しいのを書いてみる。

ひょっとすると、この話は既にこのブログにも書いているかもしれないが、それを確認するのも面倒なのでとりあえず書いてみる。

もう20年以上前の出来事なので相当記憶が曖昧になっているけど、この話は当時バンドの音源制作で出入りしていた東京某所にあるレコーディング・スタジオでの出来事。

もう何という作品を録音していた時の出来事かも忘れてしまったけど、その日はギター録音の初日だった。

前日の夜にスタジオにギターアンプや機材を運び入れ、キャビネットのスピーカーの前にマイクを立てた。

ギター録音の場合「マイクの位置」が結構重要で、俺はその手の専門学校とか出ているわけでは無いので詳しく知らないが、マイクとスピーカーの距離や、スピーカーのどの部分を狙うかでかなり音が変わる。

俺はマイクの位置にかなり拘るので、アンプから音を出してブースの中にスタッフさんに入ってもらってミキサーのトークバックを通してマイクを立てる位置決めをしていた。

翌日になり、「弦を張り替えよう」と、入り時間より少し早めにスタジオに向かった。

スタジオは地下にあり、階段を下りると2重になっている防音のドアがあって、それが唯一のスタジオの出入り口。

階段を降りていると、スタジオのドアが開いている事に気がついた。

入り口から入った部屋がミキサーのあるコンソールルームになっていて、その奥に金魚鉢と呼ばれるドラムやボーカルを録音するブースがあって、防音ドアで仕切られているんだけど、そのドアも開いていた。

コンソールルームは明かりやエアコンも付いていたので、丁度昼時だったので「食事に行ってるんだな」と、俺はギターをケースから出して弦を張り替えることにした。

入り口ドアの真横で弦を張り替えているとトントンと階段を下りてくる音がして、開けっ放しのドアから勢いよく男の子が入ってきた。

小学生の高学年って感じで、着ている衣服も白い半袖のシャツに黒い半ズボンだった。

その子供に心当たりは無いので、そのときはスタジオ関係者のお子さんだと思った。

子供はそのままタタタっと真っ直ぐにドアが開けっ放しになっているブースに入っていった・・・ブース内は明かりが付いていなくて真っ暗だったが、暗い中で何をしているのか男の子は出てこなかった。

俺は昨夜時間を掛けてマイクの位置を決めていたので、男の子にマイクスタンドを動かされるのは困るなと思ったが、子供が苦手なので話しかけないでいると「おはようございます!飯喰ってました!」とエンジニアさんが入ってきた。

俺は、子供がブースに入った事を伝えると「それは大変だ」と言いながらエンジニアさんがブースに向かったが、即首をかしげて「誰もいませんよ」と戻ってきた。

他に隠れる部屋は無いし、そのスタジオから出るには唯一の出入り口のドアの横で弦を張り替えている俺とすれ違わなければならない。

俺は可能な限りエンジニアさんに消えた男の子の特徴を伝えて、ギター録音を開始した。

本来ならもっとその話で盛り上がりたかったが、その時の俺の頭の中はギター録音の事で一杯だった。

それから半年位経った頃だったと思うが・・・またそのスタジオに久しぶりに録音で行くと、あの時のエンジニアさんがいて俺に会うと伝えたいことがあったと俺を待ちかまえていた。

話を聞いたところ、俺が前回の録音を終えた後にスタジオにやってきた数々のミュージシャンの中に「自分には霊能力がある」という女性がいて、その人がスタジオで「消えた半ズボンの男の子」を見たと言い出したそうだ。

エンジニアさんから俺が見た「男の子の話」は一切していないのに、その女性の説明は俺が話した男の子の特徴と細かい部分まで同じだったそうだ。

俺には霊感なんて無いんだけど、その女性は俺なんかよりもっと詳しいことまで判るそうで、その男の子はスタジオの前を通る某街道で交通事故で死んでしまったんだけど、自分が死んだ事に気づいていなくて彷徨い続けているらしい。

俺は「消えた男の子」は気のせいだったんだと思いこもうとしていたが、エンジニアさんから女性が同じ男の子を見たという話しを聞いて「ああ、やはり本当だったのか」とゾッとした。

今でも薄暗いブースに小走りに入っていく男の子の後ろ姿を鮮明に覚えているのだ。