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漁師の目 [日記]

見えぬモノを察知



俺の小学校時代は高度経済成長期で、大阪の工場がまき散らす煙や油などによる公害のど真ん中に生息していた。

それが奈良県に引っ越した・・・その頃の家の周辺は聖徳太子の頃から千年以上何も変わっていない感じで、小学校の行き帰りの通学路は大自然がギッシリ詰まっていた。

通学路の横を流れる川幅が1メートルも無い用水路が、俺にとっては驚異の世界だった。

その小川で最初に見たのはメダカだったと思う・・・その頃の大阪市内の河は例外なくヘドロからメタンガスが吹き出す生物が住めない死んだ河だった。

だから、身近な河に生きた魚が泳いでいるという事が驚きだった。

でも、都会から引っ越して来たばかりの子供の目にはメダカ位しか察知出来なかった。

同じく大阪から俺より数年早く奈良に越してきた同級生は、メダカなんて退屈な魚ではなくフナやモロコを探していた。

「あ!おった!そこや!」と教えてくれるんだけど、都会の子供の目の俺には用水路を俊敏に泳ぐモロコの姿は捕らえられなかった。

しかし、毎日泥まみれで用水路で遊ぶうちに、いつしか俺の目も研ぎ澄まされた漁師の目に育った・・・。

時が流れ・・・俺は仕事を終えて憂鬱な梅雨の曇り空の中、隅田川沿いの歩道から勝ち鬨橋を眺めていた。





大きなクラゲが予想以上に速い河の流れに流されていくのを見送った。





隅田川の水面は、今にも雨が降りそうな重苦しい空を写して気怠く曇っている。





俺は灰色の水面を眺めながら、駅に向かって歩き出した。

しかし、何かが違う・・・。

河に奇妙な気配を察知する感覚が、俺を子供の頃に用水路を覗き込んでいた漁師の目にさせてくれた。

何かがいる・・・見えないが、河に何かがいる!とシャッターを切った。





とりあえずカメラで水面を何枚か撮影したのをPhotoshopで補正してみると、水面下に隠れていたクロダイ(チヌ)が浮かび上がった。





俺の目は誤魔化せないのだ。