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見切りの言葉 [日々のあれこれ]

もういい[バッド(下向き矢印)]



ある役者さんのドキュメンタリーを見た。

多くの映画やテレビドラマなどで活躍されたので、俺なんかも名前は知らなかったが顔は知っていた。

もう現役を退いたそうで、自宅で暮らす日常の姿を娘さんがカメラで撮影する。

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本人はまだ現役のつもりというか、現役だった頃のプライドのままで、仕事がない状態が続いている。

数えきれない作品で様々な役を演じてきたので、演じることが通常の自分というか、「演じない素の自分」というのが判らなくなっていると語る。

老いから来る足腰の衰えは、自宅の階段の登り降りも奥さんの助けが無いとダメというのが凄く気の毒だった。

日々不自由な方向に加速する自分の身体と付き合うのに比例して、葛藤が芽生える。

やがて人格が変わり、不満を奥さんにぶつけるようになる。

夜中にトイレに行くことが多くなったりで、奥さんへの負担が増えていくのをカメラが淡々と撮り続ける。

ある夜中に、ついに奥さんの不満が爆発する!

「逃げもせずに介護しているのに、その言い方は何だ!バカ野郎!」…速射砲の様な罵倒を布団の上で黙って聞いていた俳優は、奥さんの言葉が終わったあとの沈黙の後に「もういい」と一言つぶやいた。

俺は高橋留美子のアニメ「犬夜叉」の登場人物、奈落に心臓を握られて自由を奪われている神楽の言葉を思い出した。

神楽は奈落の手から逃れて、風のように自由になりたかったが、実際に奈落から解放されたときは既に瀕死の状態だった。

なんとか好意を寄せていた殺生丸の前にたどり着いたが、死人を生き返らせる転生牙を持ってしても神楽を救う事は出来なかった。

最後に神楽が殺生丸に発した言葉が「もういい」だった。

老いるとは残酷だが、明日は我が身なのだ。