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クロ物語 [日々のあれこれ]

都心の鳩[あせあせ(飛び散る汗)]


去年の夏辺りだったと思うが、職場のビルの通気口か何かに鳩が巣を作っていた。

それまで綺麗だったのに、巣の下の床が鳩の糞だらけになってしまった。

ある日、その巣の下に鳩の雛が落ちていた。

最初は弱い雛が兄弟に巣から突き落とされたんだと思っていたが、次の日には姿が見えなくなっていた。

一月ほど経ったある日、また同じ雛が落ちていたが、身体が倍近くに大きく成長していた。

奇妙な姿をしていて、全身がカラスの様に真っ黒で、座礁したタンカーから漏れた油で真っ黒になった水鳥の様に見えた。
 
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こんな感じ
 
 

人間が近づいても逃げずにキョトンと佇んでいる。

俺はそのよく巣から落ちる奇妙な雛に「クロ」という名前を付けた。
 
 
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ネットで調べると黒い鳩はいるらしい 

 
 
それ以降もクロは時々地面に落ちていたり、近くの柵の上にとまっていたが、秋葉原に冷たい冬の風が吹き出した頃からパッタリと姿を見せなくなった。

最後に見た時も、親鳥の半分くらいの大きさだったから、巣から頻繁に落ちていたクロは生まれつき弱い鳥で、死んでしまったのかもしれないと思った。

やがて秋葉原から爆買いの中国人観光客の姿が消え…活気に溢れていた街は、再び無機質な灰色の沈んだ様相を取り戻していた…俺もクロの事は忘れてしまい、淡々とした日常の日々が続いた…。
 


ある寒い日の朝、夜勤明けで帰宅するため、早足に出勤するサラリーマン達と逆行して駅に向かってマッタリ歩いていると、歩道の済から数羽の鳩が飛び立った。

よく見ると、道路を横切って飛んでいく鳩の群れの最後にクロがいた!

相変わらず身体は他の鳥たちより一回り小さく、カラスのように真っ黒だ。

クロはファミレスの看板の上にとまって、真下を歩いていく人間達を見下ろしていた。

都心で逞しく生きるクロを見て、俺も頑張って生きようと勇気づけられたのだ。