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八つ墓村 [ドラマ・映画・アニメ・漫画]

加藤嘉の存在感[カチンコ]

映画「八つ墓村」は1977年に公開され、配収19億8,600万円という松竹映画の歴代に残る大ヒット作。
原作は横溝正史原作の同名小説。

松本清張原作の映画「砂の器」の野村芳太郎監督作品で、キャストは主人公の寺田辰弥を「太陽にほえろ!」〜「傷だらけの天使」〜「前略おふくろ様」〜「前略おふくろ様2」と乗りに乗っていたショーケンが演じ、金田一耕助役に渥美清、磯川警部役に花沢徳衛、と渋い役者が脇を固め、女優陣は中野良子に山本陽子などの力の入れようで、音楽は芥川龍之介の息子である芥川也寸志の曲がこれでもか!と言わんばかりに重厚に鳴り響き、「祟りじゃ〜」という流行語が産まれた。

この映画を久しぶりに観て、昔観たときと印象が違った。
昔に観たときは、渥美清さんが寅さん以外の役を演じる…渥美さんが他の山田洋次作品にゲストで出るのは良くあったけど、「他の監督作品で金田一耕助という探偵をどう演じるのか?」に興味が偏りすぎていて…結果、渥美さんの金田一は寅さんじゃ無かったという変な理由でガッカリした記憶だけが残った。

しかし、最近DVDで改めて観たところ、意外に芸術映画的というか、お金と手間を掛けてキチンと作られた映画だったんだなと認識が変わった。
特に、脇役の存在感が光っていて、もう今時の役者さんには居ない、昭和の役者さんの強烈な個性が映画を盛り上げていた。

そんな中で特に印象に残ったのが加藤嘉。

加藤嘉は現代劇、時代劇、映画、テレビドラマ、良い役、悪役、何でもこなす名脇役というイメージ。
ただ、時代劇で盗人の頭領の役だったと思うが、べらんめえ調で悪役を演じたり、子供の年齢が小さい「若いお父さん役」は余り似合わなかった。
元気の良い役より具合の悪い役…声が直ぐに裏返り、入れ歯特有の滑舌の悪い、目が潤んだ爺さん役がビシャッとはまっていた…やはり加藤嘉と笠智衆は老人役だ!

俺は中学生の時、奈良の…あれは確か「東向き商店街」辺りにあった映画館で、松本清張原作の「砂の器」を見て、加藤嘉のど迫力の演技がショックでトラウマになってしまった。
とにかく加藤剛のハンセン病を患った父親の役で「そ…そんな人、しらねぇ!」という迫真の演技を逃げ場のない映画館の巨大スクリーンで見てしまって、ビックリしてしまった。
なにか、べつにハンセン病の人への偏見や差別とかでは無くて、加藤嘉の迫力ある演技が恐ろしかった。

その後暫くして大好きな横溝正史の小説を映画化した「八つ墓村」を見た…これは映画版の金田一耕助は石坂浩二と相場は決まっている中で、国民的スターの渥美清さんが金田一を演じた。


映画は、戦国時代に逃げた8人の落ち武者が岡山の山奥にある、後に八つ墓村と呼ばれる村にたどり着くところから始まる…。

そして映像は現代に移り、羽田空港で航空機誘導員をしているショーケンが演じる主人公の寺田辰弥が、新聞の尋ね人欄を見て大阪の法律事務所を訪ねる。
法律事務所の弁護士を演じたのが、この手の映画では絶対必需俳優の大滝秀治。
秀治が辰弥が本物の尋ね人なのか?を確認する為に質問し、それが辰弥の生い立ちなどを掻い摘んだ紹介となる。

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大滝秀治に加藤嘉…もうこれだけで制作側が何かを狙っている意図がアリアリだ

寺田辰弥の捜索を依頼したのは、辰弥の亡くなった母親の父で、辰弥に会うために岡山の八つ墓村から大阪に出てきた。
その寺田辰弥の祖父の井川丑松役が加藤嘉だった。

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井川丑松役が…たとえば大坂志郎とか下條正巳だったら別に何とも思わないんだけど…弁護士役が秀治で、加藤嘉と来れば…「これは何かある、ただごとでは済まない」という雰囲気を感じた。
「砂の器」の衝撃から間がなかったので、再び加藤嘉のトラウマが脳裏を過ぎったが、映像は嘉が弁護士事務所の中でショーケンと弁護士とのやりとりを心配そうに聞いているだけ…何もトリックは無さそうだ。

そして、ショーケンの背中に寺田辰弥としての証しである大きな火傷の後を見て、弁護士の秀治が「ご本人です」と認めた。

感動の対面だ。

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晩年の本当にヨボヨボの嘉さんを知っているから…よく見ると全然若い

入れ歯を外した加藤嘉が、笑顔と潤んだ瞳で近づき「た…つ…や」と言ってソファーに泣き崩れた。

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うう〜うう〜、感動のシーンだが、まだ油断できない…でも何かあるにしても、まだ嘉爺ちゃんは台詞一言しか言ってないし…。

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うう〜うグッ!
それにしてもちょっと大げさだな…。

ううううう〜〜〜!!
ん?

グェ〜!!って仰け反って何か吐いた!!

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で、口から血が吹き出て死んでしまった…。

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ショーケン「あいやぁ〜!じっちゃん!」

来た!来た!加藤嘉のホラー演技!!

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八つ墓村はいきなりこんな感じで始まった

制作側としてはコレで掴みはOKという感じだろうが、こちらは騙された気分で、閉じかけていた砂の器のトラウマというか再び加藤嘉への不信感という傷口が開いてしまい、以後そういう作品で無くても嘉が出てくると何故か身構えてしまう様になってしまった。

もう出だしからゲロゲロ〜!だから、その後は次々と人が血を吐いて死んでいく…落ち武者8人の祟りだから8人死ぬ。

「幾ら何でもこんな奴は居ないだろう」という不思議で気味の悪いのが次々と出てきて、陰鬱な世界を作り出している。

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右側の市原悦子が若い!

戦国時代、村にやってきた尼子方8人の落ち武者を、敵方毛利の褒美に目がくらんだ村人が騙して殺した。
その祟りが、褒美を貰った首謀者の末裔にまで及んでいるというのがストーリーの軸となっている。

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村祭りに呼ばれた落ち武者達…田中邦衛の左に座っている夏八木勲が毛利が探していた尼子義孝

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橋本功演じる庄左衛門が裏切りの首謀者で、莫大な褒美を貰うが祟りを受けた

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毒入りの酒を呑まされ、竹で滅多刺しに刺されても死なず「祟ってやる」と笑う尼子義孝

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首だけになっても動いている尼子義孝…スゲェ〜!

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祟られた庄左衛門は発狂し、自分で自分の首を切って死んだ

この映画の有名なシーンの、落ち武者の祟りで庄左衛門の末裔である田治見家の当主要蔵が発狂し、村人32人を惨殺するのは、実際に岡山で起きた、風習であった夜這いした相手に逆ギレした「津山三十人殺し事件」がモデル…この事件は惨殺も凄いが、夜這いが「風習」だったというのも凄い!
要蔵役の山崎努が、はちまきの両側に懐中電灯を挟んで猟銃と日本刀を持って走る姿は凄く不気味。

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ただ、映画後半は複数の鍾乳洞で撮影した記録フイルムみたいな美しい映像が延々と続くが、そういう芸術的な映像を撮りたいのであれば原作が八つ墓村で無くても良かった気がする。
2時間枠で芸術的な映像と、八つ墓村の入り組んだ複雑なストーリーの両方を消化するのは無理があったと思う。

ぶっちゃけ鍾乳洞のシーンは要らなかったと思う。
通勤ラッシュ時に最後尾の車両を女性専用にしたために、他の車両が劇混みになり、肝心の女性専用車両が改札から遠いのでガラガラという感じに似ていて、「誰も得をしない結果」になっていると感じた。

結果、金田一耕助は居ても居なくてもどちらでも良い存在になり、ショーケンの父親も中野良子との関係とかが全く不明瞭なままで、全てが中途半端で終わった気がする。

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渥美さんでも良いんだけど、頭かきむしってフケを飛び散らせないと金田一には見えない

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回想シーンで登場するショーケンの母親役の中野良子

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辰弥の少年時代は寅さんの甥っ子の吉岡秀隆

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省略しても良いようなイマイチ存在感の無い役で勿体なかった山本陽子

結局金田一が調べてみると、主人公の寺田辰弥は呪われている多治見家とは血のつながりは無く、逆に尼子一族の末裔の可能性があったが、金田一はそれ以上掘り下げ無かった。

この事件の犯人だった小川眞由美演じる森美也子は八つ墓村の伝説を利用して多治見家乗っ取りを企んだが、美也子の先祖も尼子一族だった。

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最後は尼子の呪いの化身となった小川眞由美…何か、小泉八雲の世界だった

…つまり伝説では無く、尼子一族の祟りが多治見家を滅ぼしたというのが映画のオチとなっているが、そんな重要なことを磯川警部には話さず、最後に弁護士事務所で大滝秀治に語るだけで、「時間ギリギリの駆け足感」は拭えない気がした。

久しぶりにこの映画を再見したが、重厚な音楽や鍾乳洞の美しさなど丁寧に作った質感は新しい発見だったけど、結局記憶に残ったのは夏八木勲の首が動くのと加藤嘉のゲロゲロだけだった…。

何か訳が判らないので、もう一度原作を読み直そうと思う…本は持っていたはずだが探すのが面倒なので新しいのを買つもり。

コレは勘だけど、恐らく原作の方が映画より良いと思うのだ。