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カルメン・マキ&OZ [音楽]

春日博文[CD]
マキOZを今語るには、とにかく日本のロック創世記の頃のバンドなので、大昔に書かれたジュール・ヴェルヌの「SF」小説を、ヴェルヌが想像した未来よりも更に未来にいる我々が読むみたいな感覚で聞かなければ肝心な部分を見誤る。
また、俺はマニアでは無いので機材とか詳しい事は一切知らないのであしからず。

俺なんかがギタースタイルを確立する前、好きなレコードを買いあさってあれこれ吸収している時期に影響を受けたギタリストが「カルメン・マキ&OZ」のギタリストだった春日さんだった。
基本的にはペンタトニックなブルース系のギターを弾かれる。
魂で弾く!というか、長いソロを飽きさせないで、聴き手をグイグイ引っ張り込む魔力がある。
スタジオ・アルバムではアッサリ纏めているって感じだけど、ライブでは大爆発って感じ。

使っているギターも特にメインを決めているわけではなく、手当たり次第ってイメージなんだけど、ノーマルのストラトが多かったのではないかな…Vなんかも使っていたけど。
ストラトのサウンドも特にコレという特徴は無く、素直なオーバードライブサウンドなんだけど、当時の機材の事を考えると、やはり音を作るテクもトップクラスの実力を持っていた。
当時のアンプで春日さんの出した音は驚愕に価する。

例えばピンスイッチ・マーシャルにシングル・ストラトってリッチー・ブラックモアが代表的だけど、リッチーのサウンドがまともになったのって脱退する寸前の第三期ディープパープルからだと思う。
それまでの、例えば代表作の「メイドイン・ジャパン」なんて、只のアンプ直結の音で、今の時代なら立派なクランチ・サウンドだろう。

リッチーが自分でマーシャルに手を加えていた程だから、結果としてリッチーの音がその後歪みが増すということは、パープル〜レインボウ時代大幅にギタースタイルを変えなかったリッチーは、パープルの第2期では理想の音を作れていなかった事になり、当時の機材でアンプをドライブさせるのが如何に難しいことだったのかが良く判る。

因みに俺なんかも、ボロボロのピンスイッチ・マーシャルの100ワットのヘッドを持っていたが、ぶっちゃけ「煮ても焼いても喰えない」代物だった。
とにかく歪まないこと夥しかった。
4インプットにループケーブルを差し込んでマスターボリューム配線にもしたけど、若干低音が出るようになったかな?程度で歪みとは無関係、友人からボスのODを借りてブーストさせてみたんだけど、ノイズは凄いしハウリまくりで、良いところを探そうにも皆無だった。

それから随分経った時、ライブハウスでの対バンで、ピンジャック・マーシャルを凄いサウンドで弾いている人を見たことがある。
かなり改造されたんだと思うが、素晴らしいサウンドで、腰が抜ける程驚いたのを覚えている。

しかし春日さんがOZでギターを弾いていたときは、そんな改造パーツも存在しなかったはずで、これは凄いと思う。

OZ解散時のライブを聴くと、歪み系のエフェクターやワウ・ペダルなどを多用していて、ちょっと音が悪いというか凄く散漫なんだけど、NHK-FMで放送した全盛期のライブではエフェクトを屈指した方向では無く、直球勝負って感じで迷いが無く最高だ。
驚くのは当時の機材で歪みとクリーンの両方が、どちらも文句なしの高水準な事だ。

今でもHR/HM系ギタリストに多く見られるが、歪みが最高ならクリーンは「単なるエフェクトをOFFにした、アンプ直の生音」って間抜けなのが多いが、春日さんは当時の機材でどちらにも高レベルのサウンドを作っている。
恐らく当時の機材なんてエフェクトではどうにもならなかったろうから、アンプを使い分けていたのかも知れない…とにかく、その辺りの水準がハイレベルで「昔のミュージシャンは上手かった!」と再認識させられる。

ギター・ソロの特徴は、劇的な演出が上手い事だと思う…ドラマ性があり、組み立ててクライマックスに「持って行く」のが圧巻だ。
最後は速弾きのフレーズの繰り返しに行くんだけど、そこに至るまでの盛り上げが上手い。

張っている弦は、恐らく極太のゲージだと思うが、ビブラートやチョーキングが凄い!
非音楽的な外れた音程までチョーキングでやけくそ気味に上げるんだけど、それがまたカッコ良い!
ボリューム奏法からフィードバックまで信じられないくらい綺麗に掛けるのは、アンプやギターを完全にコントロールしている証拠で、当時のPAシステムなど、ステージ上の状況は判らないけど、ギターコントロールからアンプの使い方まで総合のレベルが突き抜けて安定している。

例えばマキOZ全盛期の76年にはBOWWOWがデビューするが、山本キヨジさんが同じくピンジャック・マーシャルとストラトの組み合わせでジミヘンみたいな事をやるんだけど、申し訳ないがハウリが凄かった…しかし、むしろキヨジさんの方が普通だと思う。
これはキヨジさんのテク云々では無く、それだけ当時の機材はピギーでじゃじゃ馬だった。

俺なんかが思うピンジャック・マーシャルの典型的なイメージはディープパープルの24カラット「ブラックナイト」のギターソロだ。

確かにリッチーの「クレイジー・タイム」だから、あの音というかハウリング自体がカッコ良いんだけど…もしリッチーのストラトにアームが付いていなかったらと考えるとソッとするよね?

さて春日さんのコンポーザーとしての才能は俺なんかが今更言うまでも無く、ハードロックという概念を超えたプログレの域まで入り込んでいて数々の素晴らしい名曲を作っておられる…が、残念なのは、一部の曲の歌詞が大昔のファッションというか、その時代を取り入れた歌詞なので、今の若い人には理解できないかも…「学校に行くよりも、旅に出よう」などがあったりして、とても残念だが、「私は風」「午前1時のスケッチ」「閉ざされた街」「空へ」「6月の詩」などは歌詞も良くて、今聴いても全然色あせていない。

マキOZはアルバムごとにメンバーが入れ替わるって感じで、マキさんと春日さんのユニットといっても過言では無い印象がある…マキさんのその後のキャリアを考えると、タイミングの良さもあったと思う。
とにかく今聴いてもOZのマキさんのボーカルは未だ日本のロック史で破られていない最強だと思う。
他の追従を許さないド迫力で圧倒的でカッコ良すぎる。

でも、マキさんの歌の素晴らしさを世間に広めることが出来たのは、春日さんの曲があったからだと思う。

スーパーヴォーカリストのマキさんだけど、彼女はその時代に組むバンドやユニットによって節操無く音楽性や歌い方を変えている。
マキさんの心変わりもあるんだろうけど、主な原因は作曲者だと思う。
OZ以降も多く作品を出されたが、ブッチャケOZ以後はパッとしない。

OZの後に結成された5Xの時のマキさんはライブでのMCも超カッコ良くて、完璧なハードロック・ボーカリストだったが、いかんせん曲がダサ過ぎた。

5Xがテレビに演た時、「…捕まっちゃってからは、テレビも何処も出してくれなくて…ホント今日はどうも有り難う…ではオレたちの曲を聴いてくれ!悪い夢!」って、マキさんの滅茶苦茶カッコ良いMCが終わって、バンドの演奏が始まった途端ズッコケたもん。

幾ら凄いボーカリストでも、周囲に優れた作曲者が居なければこんなになっちゃうんだ!という事を痛感した。

5Xの登場で、OZの作曲を担当していた春日さんの凄さが改めて判った…。

春日さんは、俺の中では永遠にカリスマなのだ。

午前1時のスケッチ/カルメンマキ&OZ [CD]アンニュイな歌詞の世界が謎めいたマキさんにフィットしていた秀曲