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アレンジ [バンド関係]

レコーディング前の打ち合わせ[ペン]録音前は、どこのバンドも年中録音しているわけではないだろうから、勘が狂うというかバタバタする。
俺も最初の頃は自分のパートのトラックシートだけで頭がいっぱいだった。

で、俺の経験からすると、この準備段階で最も重要なことは、バンドアレンジの綿密な打ち合わせだと思う。
結局録音に入れば、それまでの情報を入力するだけでTDに流れてしまう。
「入れ」の問題は各メンバーの力量という事で、「それ以前」に何処まで具体的に入力する素材を確認出来るか?が勝負の分かれ目だと思う。
また、同じく重要なのが、その「アレンジ」に対する「考え」をハッキリ全員に伝える事を疎かにすると痛い目に遭う。

「ここの部分をこう変えた理由」を、別に理路整然と語る必要はなく「がぁ〜っと!」とか「しこ〜ん」とか、言葉なんてどうでもよいから、気持ちを全員で共有するのが大事…でないと、「がぁ〜っと!」ラウドに行きたいところで、他パートが淡々とやっていたりして盛り上がらなかったり、「しこ〜ん」と静かな間にしたいのに、他パートがバーンとやっていたりで、結果起伏が無いペラーンとした流れになってしまう。

別に全員が口々に語らなくても良い。
「旅行」に例えるなら添乗員、バスガイド、運転手などある程度役割分担を割り振れれば理想的で、全員が運転手になってしまえば行き先1つ決めるのに大騒ぎになる。
あれだけ大人数のフルオーケストラが、1つの曲を乱れずに演奏できるのは指揮者がいるから。
でも、何人も指揮者が出てきて、それぞれの解釈でタクトを振り出せば混乱する。

また、全てを仕切ろうと指揮者がガンバリ過ぎるのも、良い結果は出ない。
例えばドンデンが優秀な佐藤ピッチングコーチを解任し、野手出身のドンデンが投手まで管理しようとしたが、結果は惨憺たる成績に終わった。

つまり、それぞれのパートを受け持つメンバー達の集団であるバンドは、個々のメンバーにそれぞれの経験や専門知識を持っているので、それをリスペクトして受け入れなければ、よくある「価値観の偏ったソロアルバム」になってしまう…上手く言えないけど、俺は「指揮者が誰であるか明確に判ってしまう作品は、恥ずかしい」と思う。

…あれは…今から20年以上前、銀座でバイトしていた時の話…。
俺は東京に移住して間が無く、トリオ編成のMLで売り出し中の鵜の目鷹の目だった。

ファースト・デモを作り、仕事の帰りにショップに納品するために纏まった数を職場に持ち込んだ。
その職場は、ミュージシャン志望のバイトのたまり場で、パンクとかメタルなどバンドを「やりたい」若い連中が集まっていた。

しかし、内情はバンドを結成して活動しているのは俺達を除けば1つだけで、後は「以前やっていた経験がある」とか「これからやる」とか、東京独特の「志望者」の集まりだった…今は知らないが、バブル絶頂期の当時は田舎から受験で出てきて、そのまま東京に居着いたミュージシャンにあこがれる若者で溢れかえっていた。

その職場に存在していた活動しているもう一つのバンドは、「元プロ」で、一枚だけメジャーからシングルを出し、それがエロ映画の主題歌に取り上げられてたニューミュージック系のバンドだった。

俺が横浜のメタルドラマーの紹介で、その職場に潜り込んだとき、そのバンドはその職場では皆の憧れの神の様な存在だった。

ある日…新入りの俺と、当時のドラムのマコトが仕事が暇な時間に職場の隅で箱に入ったカセットに、コピーした歌詞カードやらジャケットなどをケースに入れて商品を作っていると、そのバンドのギターのIさんが俺の横にやってきて「聴かせてよ」と言った。

俺はウオークマンを取り出し、デモ・テープを入れて再生した。
暫く聴いた後で、そのIさんはテープの感想を「中小企業の社長のオッサンが目一杯張り切っているって感じだね」と笑った。

…そのファースト・デモは…時のMLは金が無くて、Kyoの通う大学のクラブの先輩からオープンリールの8chMTRを借り、夏休みにそのクラブが合宿に出かけて空いた部室を使い、そこに布団や炊飯器まで持ち込んで作った血と汗と涙の結晶だった。
それを「中小企業」と笑われた…が、俺は「その通りだ!」と思った。
つまり、指揮者が俺だというのがバレバレの丸出しだった。

また、Iさんのおかげで致命的欠陥に気が付いたのがファースト・デモで良かったと思った。
ファーストの中身は、俺の大阪時代に作った曲の…例えばそれが予算や制作時間だったり、俺も含めたメンバーの技量だったりでの「大阪時代には出来なかった事」の集大成みたいなモノで、他の2人はいざ知らず、俺にとっては色あせたセピア色の焼き直しネタだったので、「よし!今度は指揮者が誰か判らない『バンドの音』を作るぞ!」と、全て新作のセカンド・デモに向けて気合いが入った…その時点でファーストの発売なんてどうでも良くなった。

そこから俺は、ドラムやベースがどういう音で鳴れば「ギターに負けないで音が抜けるのか?」とか、制作する音源の中で俺のパートより重視するようになった。

上手い奴を見ればパートを問わず、そいつが何を使っているのか?に興味を持ち、曲のアレンジも「何となくテキトーに鳴っている」のでは無く、ガッツリ打ち合わせて「バンドならでわのアレンジ」としての演奏に拘った。

…でも、実際それが明確に効果として現れるには、俺以外のメンバーも同様に考えなければ難しく、想像以上に時間が掛かった。
それは、他メンバーの過去のキャリアのそれぞれに中小企業のオッサンが居て、そういう環境に慣れていたからだと思う。

この「指揮者が丸裸」の問題を効率良く解決するには、とにかくメンバーとの直接のコミュニケーションしか手は無いと思うが、ここを面倒にスルーしても得られるモノは無いと思う…実際の録音という「結果」より、もっと大事な行程だと思う。
特に、自前録音でTDも自前ならやりやすいが、他人が介在するレコーディング・スタジオの場合、エンジニアにもこのことを理解させる所から始めなければならないので、相当の忍耐とスタミナが要る。

でもね、音源制作って難しいから楽しいのだ。