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マージュリッチの「ファンタージェン」にまつわる不思議な話 [バンド関係]

再録「ファンタージェン」録音時にあった怪奇現象[がく~(落胆した顔)]

この話は当ブログの前身である「土支田銀河帝国」で取り上げたが、ここで改めて詳しく紹介する。

当時の録音は今と違ってアナログレコーディングだった。
時代は既にA-DATとがが主流だったが、まだまだ実用的には厳しい代物で、サウンドの分厚さを考えるとアナログ・マルチテープでの録音がベストだった。


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「再録ファンタージェン」制作中のファンタML 

録音スタジオは、レコーダーはスイス製の「スチューダー」という24チャンネルのMTRで、タスカムのミキサー卓を使っていた。
24チャンネルという事は、24個別の音を録音出来る…例えば1人で24人分の歌を録音すれば1人大合唱になる。
当時のMLは大体80チャンネル位使っていた…今の約半分だ。

しかし、録音の手順は今と同じで、最初にドラムを録音し、次にベース、ギター、シンセを入れてカラオケを作り、ソロやボーカルを入れていくという流れ。
怪現象は、歌入れの前のカラオケ制作の行程時に起きた。

当時の俺は、具体的にどれをどう弾くというのを決めていなくて、当日ギターを持って「さてどうするか」と考えていた。
無制限に録音スタジオを使えたので、その場で思いついた事を実験してみる試行錯誤も多く試していた。
そういう録音は大抵次の日の朝まで録音していた…今から思うと凄まじい体力だった。
朝が来ると、俺は自宅に電車で帰宅し、エンジニアはスタジオでトラックの整理をして、次の録音に備えた。
つまりチャンネルが足りないので、録音したOKテイクはスチューダーと同期させているデジタルマルチレコーダーに纏めていた。

具体的には、例えば俺が4声のギターハーモニーを作ったとする。
それをそのまま放置していたのでは、マルチテープは4チャンネル分として残ってしまう。
それをミキサーで2チャンネルに纏めてデジタルレコーダーに放り込めば、マルチテープの4トラックを消して別の録音に使える…こういう作業を延々とやっていた。
ギターオーケストラなら、最大でも8トラック程度だけど、あのアルバムはバックコーラスに凄く凝った。
大人数で、何度も何度も多重録音で声を重ねていたから、途中で纏める作業をやらなければ他の楽器は何も入らなかっただろう。

ある日、俺は夜中に帰り、エンジニアのコカちゃんがトラックの整理を始めた。
因みに俺は当時所属していたレーベルでは、コカちゃんとしかやらなかったし、コカちゃんのエンジニアとしての初仕事も、俺の「真実の指輪」だ。
だから「真実の指輪」「悲劇の泉」という大事業を2人で格闘して乗り越えたので、もう「再録ファンタージェン」では何も言わなくても阿吽の呼吸でサクサク作業が進んでいた。

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仕事中のエンジニア小門氏

曲は「黄金の城」だったと思う。
コカちゃんは1人で、トラックの整理をするためにマルチテープをプレイバックしていた。
それぞれ別々のチャンネルに入っている音を、ミキサー卓を通して左右のスピーカーから音を出していると、歌が聞こえてきた。
しかし、録音行程はまだベーシック録音の途中段階で、歌どころか楽器のソロパートすら入れていない状態だった。

歌がテープに録音されるには、録音ブースの中で歌わなければ入らない。
ギターやベースの録音は、ブースの中はアンプとマイクがあるだけの無人で、弾いている人間はミキサーがあるコンソールルームに居るから、そこで幾ら大声で歌いながら弾いても、分厚い防音ドアで仕切られたブースの中には届かない。
その時点でブースの中に人間が入って録音するのは、唯一ドラムだけだから、ドラマーが歌っているのか?と疑ったが…聞こえてくるのは女性の声だったらしい…もちろんテープはバージンで、「再録ファンタ〜」は業界定番だったアンペックスを使っていた…因みに「悲劇の泉」はピークに強いスコッチ。

不思議だけど、知らない人の歌が入っているのは不味いのでコカちゃんは「どのチャンネルに聞こえてくる歌が入っているのか」一つ一つのチャンネルを確認していった。
しかし、一つ一つのチャンネルを聴くと、何処にも入っていない。
全てのトラックを走らせると、聞こえる…その歌は音程が無く、「ぅあああ〜」という感じで聞こえたらしい。

何度か繰り返し聞いていると、毎回歌が入る部分が違うことに気が付いた。
更に良く聞いていると…謎の歌は2つのモニター・スピーカーから出ているのでは無く、自分の後ろから聞こえていた…。
流石に恐ろしくなったコカちゃんは、仕事を中止して部屋に戻って寝たそうだ。

次の日、俺がスタジオに行くとコカちゃんは昨夜の出来事を俺に話し、マルチテープを再生した…恐らく俺が来るまで彼はテープを回さないで待っていた様だった。
その時は謎の歌は聞こえなかった…というか、もし本当にテープに謎の歌が入っていれば100チャンネルの音を同時に聞いて、全てのバランスが瞬時に理解できる俺の耳が感知しないはずがない。

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トラックダウンでバランスをチェックしているプロデューサーのヌメロ上野氏と俺…俺と上野氏は、普段は馬鹿話しばかりしていた

結果謎の歌はそれっきり聞こえなかったので、俺は聞くことが出来なかったが、コカちゃんからその話しを聞いた時、俺は驚かなかった…というのも「ファンタージェン」という作品は、それより前から不思議な出来事が多かった。

ま、それらはまたの機会に紹介したいと思っているのだ。



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